「逃げる男」
「はぁはぁはぁっ……」
私の荒い息遣いと足音が響いている。
そこは暗闇に包まれた細い路地だ。
ダダダダダダダダダダダッ
その後を追って、さらに多くの足音が通り抜ける。
私は逃げている。何故なら捕まるわけにはいかないからだ。
足がもつれ、肺や心臓が悲鳴を上げるがそんなモノを聞き入れるだけの余裕は今の私にはなかった。
何故なら私は逃げているからだ。
私が追われるきっかけになったのは30分前。
私は死刑囚だった。しかし無実の罪だ。
何の関係も無い自分に人殺しの罪をかぶせ、警察は自分を捕えた。ありもしない証拠を次々と挙げられ、急な
展開に戸惑うしかなかった私が裁判で勝てる道理などなかった……
だから刑務所から脱獄した。無実の罪が晴れることなどあり得ないと思ったからだ。このまま捕えられていれ
ば死刑になる。脱獄する理由はただそれだけで十分に足りた。
死刑を逃れるため、刑務所から逃げている。
刑務所から逃れるため、警官から逃げている。
今の自分はホントに逃げることしかしていなかった。が、それをやめることなど出来るはずも無かった。
「とにかく逃げなければ…」
走り続け、酸素が不足した脳ではそれだけを思うのがやっとのことだった。
どうにか警察の追跡を撒き、路地裏の陰に隠れ息を整える。
走り続けた私の息は肩で呼吸をするほどに乱れていた。
これからどうするかを考えなければならないのに、脳に酸素が足りないなどとは全くもって不愉快だ。そんな
理不尽、一刻も早く正常に戻さねばならない。
それに追跡を撒いたとはいっても周囲には警官がまだうろうろしている。不用意に歩くようなことがあっては
また追われ続けるハメになる。
かと言ってずっとここに留まるわけにもいかない。夜が明ければ無論のこと。それ以前にヤツラが警察犬など
を連れてくれば一発で私の場所などバレてしまうだろう。まったく犬の分際で私のことを追い詰めようなどとは
失礼な話だ。
そんなことを考えているうちに肺は正常に空気を吸入する状態に戻り、心臓も常の鼓動を取り戻していた。
全身を覆う、筋肉、肺、心臓の軋みはまだ引かなかったが贅沢も言ってられない。なぜなら私はまだ逃げなけ
ればならないのだから。
……いい案が思い浮かばない。
まだ脳まで酸素が行き渡っていないのだろう。そうでなければ妙案が思い浮かばないはずなどないのだ。
全く、それもこれも路地裏の陰などという空気のよどんだ場所にいるせいだ。もっとこういった隅の掃除まで
しっかりしておかないから汚れが溜まり空気が汚くなるんだ。
私は見たコトも無い、この路地裏の所有者を想像しつぶやき声で叱責した。
しかし、そんな事を言っている場合ではない。私は世間に対して正してやりたいことはいくらでもあったが、
今は全くそんな場合ではない。何度も言うが逃げなければいけないのだ。
汗が頬を伝いアゴへと流れる。しかし、それは無精ひげに遮られ頬のあたりで、じわっとにじむ。
全くもって不快感だ。それもこれも刑務所では刃物を持たせてくれないせいで、ひげが剃れなかったからだ。
実に不快で気に入らない話だ。
色々と周囲の不快感が私を蝕み、そのせいで良い案も思い浮かばなかったが私はここを離れることにした。
とにかく、刑務所の周囲から離れてしまえば捜索している警官に出会うことはなくなるだろう。それは大きな
メリットだ。そんな事は子供でも分かる。
私は当然として子供よりは頭がいいのだからそんな事に気が付くのは当然だ。ここに留まる方がどうかしてい
る。
「それが分かったのだから、こんな場所はさっさと立ち去ろう」
小さな声でそれを何度もつぶやき、周囲の状況を確認する。警官がいないことを把握すると、私はまたしても
駆け出した。
だが運の悪い事にまたしても警官に発見された。一人の警官が声を上げると大勢の警官がワラワラと集まって
くる。
自分ひとりに対して、こんな大人数の警官を動員できるほど警官という仕事はヒマなのだろうか? 全くもっ
て苛立たしいことだ。
そんなヒマ人の無能どもの警官ではあったが、さすがにこれだけ多く集まってくれば逃げるのは困難になって
くる。
あっという間に周囲を包囲され、私は逃げ場を失う。
私は地面に落ちていたカッターナイフを見つけとっさに拾うが、拳銃を持った警官数十人相手ではこれは、い
かにも心もとない。
この包囲から逃げ切れるか?
私は頭をフル稼働させ、退路がないか必死に探る。
いかにも逃げ場などなさそうだが、アリ一匹として逃がさない。というような完璧な包囲でもない。どこかし
ら突き崩す箇所はあるはずだ。
考える。考える。考える……
何故なら私は逃げなければいけないのだ。こんな場所で立ち止まっているわけにはいかない。
警官が何やら声を上げている。
投降しなさいとか、手荒なマネはしない、だとか言っているがそんな事は関係ない。何故なら私は逃げなけれ
ばいけないからだ。それ以外の選択肢などあり得なかった。
だいたいが捕まったらどっちにしろ死刑なのだ。手荒なマネなど、されようがされまいが今さらな話であった。
自分の手にはカッター一つ。周囲を取り巻く警官の数はざっと見、30…以上
そしてそれらの手には拳銃。全てが自分に向いている。
絶望的な状況。四面楚歌、絶体絶命、万事休す。風前の灯火。といった状況ではあるが諦めたりはしない…
なぜならば自分の頭の中には、最初から最後まで逃げることしかないのだから。
逃げなければ。逃げなければ。逃げなければ。逃げなければ。逃げなければ。逃げなければ。
逃げなければ。逃げなければ。逃げなければ。逃げなければ。逃げなければ。逃げなければ。
逃げなければ。逃げなければ。逃げなければ。逃げなければ。逃げなければ。逃げなければ………
包囲から。警官から。刑務所から。死刑から…
だがその時、私は妙案を思いついた。さっきから頭がさえないと思っていたが、これはとても素晴らしい案だ。
我ながら褒め称えたいとさえ思う。
逃げ切れる!! 包囲から。警官から。刑務所から。死刑から。
そう思うと自然に口の端がグッと吊りあがり、ニヤリと頬が歪む。口からは、大きな声の哄笑が漏れる。
周囲にいた警官は怪訝な顔をするが、そんなこと私には関係なかった。
手に持ったカッターナイフをスッと持ち上げる。それに合わせ、周囲にいた警官が緊張感を高める。
そして私はそれを首の頸動脈に軽く添える。
警官は早まるな! と叫び声を上げる。おそらく彼らは是が非でも私のことを死刑にしたいのだろう。そうで
なくては世間に対して示しがつかないと思っているはずだ。全くもって予想通りの行動だった。
そして私は、首に添えた手に一気に力を込めた。
ズブッという感触とともにカッターの刃が何かにもぐり込んだ。
それに合わせ、私の首からは勢いよく暖かい血液が噴き出る。
ハハッ。笑みがこぼれる。
これで誰も私を追って来れない。
包囲からも、警官からも、刑務所からも、死刑からも。私は逃げ切ったのだ。
首から真っ赤な血しぶきを上げ、意識が真っ白に混濁していく中、私はただひたすらに高笑いを上げていた…
■あとがき(?)
これはもう病んでるねww
「追われる者の心理」みたいのがテーマ。ってかそれしか思いついてないのに書き始めたw
もう何も考えずに徒然なるままに書きましたさw
思いつくままに書いたんで30分ちょいくらいで書き終えた感じw
これを書いてて楽しいと思った俺は病んでるか…?
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